アイ・アム・サム 良い線いってるんだが、なぜか響かない映画…

プライムビデオで無償公開されている「アイ・アム・サム」を観てみた。

好き系の香りはプンプンするのに、いまいち芯に当たらず凡打で終わるエピソードばかりで、欲求不満が残り心にイマイチ響かない映画だった。惜しい…

あらすじ

『アイ・アム・サム』(I am Sam)は、2001年に公開されたアメリカ映画。知的障害を持つ父親と、幼い娘との純粋な愛をビートルズの曲とともに描いたドラマ映画。

引用元:https://ja.m.wikipedia.org/wiki/アイ・アム・サム

ビートルズ好きという安直な記号

趣向の世界なので、何で好きなの?は野暮な質問だが、なぜ主人公のサムはビートルズが好きなんだろ…。

きっかけとなったエピソードでもあれば、しっくりきたかもしれないが、ビートルズをあてがっとけば"格好がつくだろ"みたいな、ビートルズという記号をとってつけた感が拭えなかった。

逃げる母親の心情は?

いきなり産みの母親が、サムと赤ん坊を置いて走って逃げるシーンがあるが、彼女は何を思って逃げたんだろ?

一時の気の迷いで子供を授かった的な説明がチラっとあったが、それなら中絶する選択肢もあっただろう。なのに、彼女は産んで逃げることを選んだ…。ここは少し説明が欲しいところ。

なんの説明もないので、母親が"知的障害の父親と娘"という舞台をつくるための、小道具でしかないような扱いになっていて、ハリボテ感が半端ない…

退屈な親権裁判

何を語りたいのかぼんやりする裁判シーンが何度も繰り返され、非常に退屈。

期待した展開は、

サムの情熱に皆が感化されはじめ、最後はみんなが味方になって、サムと娘を応援してくれる

か、

サムの情熱は届かない、けど皆が父娘が幸せに暮らすために懸命に考えぬいて出した結論だったから、辛いけど受け入れるしかない

みたいな感じ。

実際は後者に近いストーリー展開なんだが、リタ(ミッシェル・ファイファー) vs 検察官のキレの悪いバトルに終始する。

証言台に立った隣人のアニーについても、中途半端に父親とのなにがしかのトラブル(たぶん近親相姦)を暴露されるだけで、その後はほったらかしな展開にハテナが残る。

あと、サムがリタの脚色にそって証言するエピソードも、脚色をあきらめ、自分の気持ちを口べたながら語ってるのかと思いきや、映画のセリフを引用するという、意味不明なオチになる。この展開がイマイチだし、なんじゃそりゃ?のレベル。大切なのは言葉じゃない!愛なんだ!となるべき展開なのになぁ…。

リタの更正ストーリーは蛇足

誰もが羨む勝ち組の生活をゲットしている彼女にも、実は常に劣等感を抱きながら生活していた…。ある程度は事実だと思うけど、このエピソードを挟む作者の心中には、勝ち組・負け組なんて関係ねぇー、サムはけして負け組なんかではないんだよ、今に幸せを感じてるかどうかが大事なんだよ、と語りながら、根っこにはものすごいコンプレックスが蔓延っている様に感じる。

リタも当然完璧な人間ではない。そんなこと当たり前田のクラッカーっしょ(笑。

そんな彼女が、持てる才能を活用して懸命に生きた結果、みながうらやむ生活をゲットできた。でも、多忙がゆえに子育てや夫婦関係に悩んでいる。で、いつも劣等感を抱きながら生活している。ただそれだけで良い。その心情をセリフで語らせる必要などない。そのセリフを吐かせることで、あなたは負け組の人生だけど、私だってつらいのよ、だからガンバりなはれ~、と言ってるようで、はぁ?って感じがする。

リタが人生の課題を抱えて生きてるのは当たり前で、サムと過ごすうちに、気づいてなかった"大事にしなければならないこと"に、彼女自身が気づく、そして生活を少しずつ改善していき、映画の終わりでは完全な解決はみないものの、彼女も一回り成長してこれからの課題をよりよいやり方でクリアしていくんだろうな、と含みを持たせて暗転する、くらいの展開で十分なのに、サムに心情を吐露して、抱き合って、恋愛ムードまで漂わせるのは、かなりシラケる…

サムに親権に与えるべきか?

こんなくだらないテーマに2時間も付き合わされるのは、二度と勘弁してほしい。

サムに親権を与えるも何も、もともと親権は彼にあるでしょ。

ただ、彼が"養育の義務を履行する意志あれば"の前提がつく。

現実的な壁として、養育の意志があっても、経済的な問題や、養育に必要な能力の不足などはある。

でも、この映画で語るべきなのは、"愛こそすべて"(All You Need Is Love)であって、それがあれば現実の壁なんて壊せるよ、と雄弁に語ってほしい。ビートルズを引っ張り出しといて、そこに流れ込まない展開って、ハテナでしかない…

その原点を見失わないなら、彼らは様々な課題を独自の工夫や、周囲の支援で乗り切っていけたはずである。

否、それはファンタジーだよ…という批判があるかもしれないが、バッチ来いでしょ!

そう、映画なんだからファンタジーで良いんだよ。むしろファンタジーであれ!サムという人間なら、もしかしたらそんなミラクルも起こせるかも?と観客に少しでも信じさせたらオッケーなんだよ。

それを語らずに、彼に親権を与えるべきか?を他人が云々するストーリーはクソつまらん!としか言いようがない。そうした裁判が現実としてたくさん執り行われてるのかもしらんけど、それを題材にするなら、もっと細部までリアリティが欲しいわ。のっけからフィクションまみれやのに、ドキュメンタリーな題材を取り上げるのは、ミスマッチとしか言いようがない。

まとめ

惜しい!ほんまに惜しい…。そんな映画。

良い素材が集まってるのに、ストーリーと演出がすべて台無しにしてしまっている。

未見の方は、他の映画にした方が良いですよ!とアドバイスしておく(汗